本の旅⇒INDEX(記事一覧へ)
読めば身の破滅?!危険な本『ウォールデン 森の生活』
岩波文庫版の訳者について
ソローの『森の生活――ウォールデン――』は青空文庫にあるが、これが神吉(かんき)三郎訳でかつて岩波文庫だった
冒頭の「訳者のことば」が長くて、なんと400字詰め原稿用紙に換算して16枚以上もあって、内容の充実度がどれくらいのものか、以下に要約してみたので参考にして欲しい(これからソローの『ウォールデン 森の生活』を読むなら、完璧なネタバレなのだが是非とも読んで欲しい)
- 著者ソローと『ウォールデン』の概要
- アメリカの代表的な古典作家だが、その代表作こそが『ウォールデン』で、ソローがコンコードの森に建てた小屋での生活を記録したものであり、自然との共生や簡素な生活に焦点を当てている
- アメリカにおけるソローの思想
- 現代のアメリカはもちろん、当時にしてもソローの精神は簡素で自然な生き方に基づいてて独自だが、ソローの思想はアメリカの歴史や文化において重要である
- 『ウォールデン』の概要
- ソローはコンコードの町から離れて、自身でウォールデンに建てた小屋に移り住み、その動機、農作業、湖水や森の四季の描写、地元の人々の叙述、読書と思索などを綴りながら2年2ヶ月を過ごした
- ソローのライフスタイル
- 禁欲的で簡素な生活を実践し、清純な感覚と不純物のない眼を持ち、酒・喫煙を避け、肉食を控え、恋愛や家庭的な絆を持たなかった
- ソローの多面性
- ソローは禁欲的な一面と享楽的な一面を併せ持ってて、自然との親和性や科学的な探求心もあり、また風景や動植物に対して詩的感受性にも優れてた
- 作品の評価
- 『ウォールデン』は初版はあまり売れなかったが、著者の死後に評価が高まり、アメリカ文学の古典となった
- ソローの文章は晦渋で抵抗があるとされるも、『ウォールデン』は自然との調和や簡素な生活に焦点を当てた作品で、彼の独自の思想が際立っているからこそ面白い
- 「詩人博物学者」
- チャニングはソローを「詩人博物学者」と評し、彼の生活や著作において自然が冷やかでなく、人生と一体化していると述べてた
- ウォールデンの湖水や森だけでなく、そこに住む小動物や植物も人間の性格や運命を反映していると考えられてる
- 感受性と表現力
- ソローは人間の本質を芸術的デフォルマシオンによって立体的かつ自由に表現し、自然を人事の鏡として掲げた
- 彼の詩的感受性は風景や動植物に対して異常に鋭敏であり、多くの不朽な心象を創造した
- 喜びと悲しみ
- ソローは喜びと悲しみが自然を最も美しく照らし出す光であるとし、自然と人生の結びつきを深く感じてた
- ソローの特徴
- ソローの著書は告白文学でありながら、涙ではなく仄かな詠嘆が支配してる
- ソローの半生
- 1817年にマサチューセッツ州のコンコードで生を受けたソローは、ハーバード大を卒業後、良書を書いて後世に残すことを目指した
- 職歴や兄弟との思い出について
- ソローの晩年の仔細な年譜
- 1843年から1862年の死去まで
- その死と最期の言葉
- 死の間際には「神と和解したことはない」と言及
- ソローの時代背景
- アメリカが西部に発展してく中で、物質文明の発展と共に都市と農村での生活難も深刻だった
- 著作『市民としての反抗』
- ソローが政府への税金支払いをこばみ、奴隷解放のために熱弁をふるった件についての詳細がある
以上、本文をまとめてるのではなく「訳者のことば」の概要ね
ちなみにThoreauの日本語表記を、神吉三郎はソローでなく「ソーロー」としてるが、1951年に刊行されて旧仮名遣いでもなかったのに、1995年に新訳にとってかわられたのは、まさか「ソーロー」って日本語表記のせいってコトは・・・ないかえ?
訳者の神吉三郎は明治生まれでも、これは最晩年の1951年に岩波文庫から刊行されてたが、「訳者のことば」を読んだだけでも、ソローについてネットも無い時代に良く調べてると感心したのに、むしろ本文以上にもったいなく感じてたから、青空文庫があって「訳者のことば」がネット上に残ってくれて、つくづく良かったと思ったわ!
しかも神吉三郎が「訳者のことば」を書いてるの1951年で、翌年の1952年に亡くなってたと知って調べてみれば、第二次世界大戦中は英語が堪能なのを買われて軍で働いてたのが、終戦後は職にあぶれて苦労なさったみたいだしね
でもだからこそ『ウォールデン』を訳す時間もあったのかも?
本書にはすでに明治年間に水島耕一郎氏の『森林生活』という訳があり、その後三種ぐらいの訳もあるが、なお新訳を試みる余地があると考えて訳してみた。
「訳者のことば」の最後にはそんな情報もあって感慨深い
『ウォールデン 森の生活』を避けてたワケ
定年退職後に読もうと決めてた本を前倒しで読み始めたのは、2019年9月6日だった
神吉三郎訳が青空文庫にあるので無料で読めるも、気になる訳者のを購入して読み始めた
それはNHKの「チコちゃん」でもよく見る今泉忠明訳で、小学館文庫から出てるってだけで凄く読み易そうな気がしたし、今泉忠明の父親の今泉吉典と言えば、子供の頃に馴染みのあった図鑑の監修もしてた人で、親子して動物学者なので野生動物の情報には正確だろうて、尤も著者のソローはその辺どうだが知らんけど
『ウォールデン 森の生活』の邦訳は、昭和の時代には紙の書籍で何種類も出てたので、古本屋でも何度か目にしてたし、本屋の店頭に新装版があったのを手に取って、頭から数ページだけ読んでみて、すっかりソローの虜になるも購入を思い留まったのは、その先を読む勇気がその時には無かったからだ
なんせ自分にとって、いや、殆どの現代社会を生きる労働者にとって、ソローの言はまるで悪魔の囁きの如くに魅惑的過ぎたのだ
文明社会の軛(くびき)に抗えず、ひたすら働くだけでやっと生きてく毎日が、バカバカしくなりそうな内容に、ふと怖ろしくなった
まあ読み始めた時だって、読み進めるのを断念した時から状況が好転してたワケではなくってよ、日々、生真面目に仕事と家事をこなす一方で、編み物や読書に割く時間が足りず、睡眠を諦めるコトで賄ってるようなギリギリの状態で、いつも焦燥感に駆られてる生き方で、ちょっと苦しいってか、たまにしんどい時もあって、ソローのように自由を満喫してるのは羨ましい限りだった
生きる目的があって、その目的地に真っ直ぐ進めるのは至福の人生だろうて、そこに異論を唱える者はいなかろう
でもどんなに遠回りをしたって、目的地に辿り着く(着けるはず)って希望を抱けるだけでも、本トは十ニ分に幸せな生涯なのだがね、但し、その前に寿命が尽きる可能性もあり・・・
過去も未来も永遠に続いてて、その挟間に在る今にしか人間は存在出来ずにいるので、今が目的地なのだとしたら未来に失う時が必ずくる、未来永劫、ずっと続く幸せがあったとしても、今度は自身の寿命こそが続きゃせんて、儚い生き物さね
そもそも緑は豊かながらも半人工的であるため安全な都心で、便利な文明生活を送るコトに感謝こそすれ、それを捨てて森で生活しようなんて、自分には思いもよらんて
だからソローの「森の生活」の一部に羨望は抱けど、実際に独りで「森の生活」するのは無理!!
無理だからこそ憧れるのだが、そういう無責任な憧憬を燻らせてると、つい、うっかり、何かの拍子にちょっとだけ堕落して、あっという間に堕落が蔓延してきてしまうと、日々の生活を行き詰まらせてしまうので、身の破滅に至るのは至極簡単だ
苦痛を避けて楽をするために言い訳をするようになり、堕落の沼に嵌って熱弁する能力だけが高まるが、その言い訳を雄弁にするネタが満載な本は、実質的には良著であってもそれは危険な本なのだ・・・
夜中に泥酔して読んでたら、翌日の仕事を確実に放棄しそうで恐ろしい
そうと察知した本なれど、定年退職後に読む1冊めにはうってつけだろう、でも早まって読み始めてしまったのは、今は守るべき家族(猫の兄妹はちとくま)に対して、責任を放棄するコトはありえんからだし、そこには責任以上に愛情があって、頼まれたって放ってはおけないからなのだよ
邦訳一覧
邦訳がたくさんでているのだが紙の書籍で買うなら、自分の好みとしては佐渡谷(さどや)重信訳の講談社学術文庫一択だな
上下巻でなく1冊にまとまってるというのも読み易いが、他の著書から想定するに趣味が合いそうだからだ
『漱石と世紀末芸術』とか『鴎外と西欧芸術』とか、文人と芸術についての論考はどれも大変興味深いのだが、何と言ってもトマス・ブルフィンチの『ギリシア神話と英雄伝説』の訳が、講談社学術文庫から出てたのは衝撃だった!岩波の訳しか知らなかった自分はヲタ魂に火が点いた!!
1995年に出てるので自分には新しく感じられるも、四半世紀前なのだから今の内に買っておいた方が良さそうだが、1995年というのは1932年生まれの訳者が還暦も過ぎた頃で、ソローの訳出も還暦に程近い1991年だった
コミカライズされてる2冊はいずれも近年に出てるのだが、ジョン・ポーセリノの方は電子書籍化もされてた
訳者は金原瑞人(かねはらみずひと)って、ジェイムズ・ノウルズの『アーサー王物語』を訳してた人・・・訳自体には文句は無いけど抄訳なのが残念だったんだわ
もう一冊の方は原正人(まさと)訳で、この方は存じ上げませんでしたが、主にフランスのマンガを翻訳されてるらすぃ⇒個人サイト
アマゾンでは10ページほどが掲載されてるので、絵柄や全体の雰囲気は掴める
そして岩波文庫版の新訳は飯田実
飯田実は同じくソローの『コッド岬』と『市民の反抗 他五篇』も訳してる
1983年に荒竹出版から出てた神原(かんばら)栄一訳は、『森の生活』と言うタイトルで「ウォールデン」が無視されてるし、著者の名前もH・D・ソーロウになってて、1冊にまとまってても3千円近い値段に躊躇してる内に絶版になってた
ところがこれがグーテンベルク21から電子書籍化されてて、値段も千円以下になってたし、タイトルには「ウォールデン」が付いて『森の生活 ウォールデン』になってて、H・D・ソーロウでなくヘンリー・D・ソローになってた
以下、目次
- 経済
- 住んだ場所とその目的
- 読書
- 音
- 孤独
- 訪問客
- 豆畑
- 村
- 池
- ベーカー農場
- より高度な法則
- 動物の隣人たち
- 暖房
- 先住者……そして冬の来訪者
- 冬の動物
- 冬の池
- 春
- むすび
- ソローの生涯
- 訳者あとがき
[ソローの生涯]については詳しく、次の5項目に分けて書かれてるコトも付記しておこう
- ソローの生きた時代
- ソローの住んだ土地
- コンコードと超絶主義
- ソローの生涯
- 『ウォールデン』(副題「森の生活」)
訳者の神原栄一は1929年(昭和4年)生まれで、存命だとしたら90代なのだが(2023年現在)、グーテンベルク21で出てるってのは、既にお亡くなりになってて10年経ってるのだろうか?
出版社と訳者(コミカライズ版の作者)、出版年を一覧にまとめておこう
出版社 | 訳者 | 出版年 |
---|---|---|
岩波文庫 | 神吉三郎 | 1951 |
荒竹出版 | 神原栄一 | 1983 |
講談社学術文庫 | 佐渡谷重信 | 1991 |
岩波文庫 | 飯田実 | 1995 |
小学館文庫 | 今泉忠明 | 2016 |
小学館文庫 | ジョン・ポーセリノ / 金原瑞人 | 2016 |
小学館文庫 | マクシミリアン・ル・ロワ / A・ダン(イラスト) / 原正人 | 2016 |